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今月の街②……唐人町 / 福岡ウォーカー寄稿 あの日、あの街で

知人がライブをやるので聴きに来ないかと誘ってくれた。場所をたずねると唐人町だという。そんなところにライブハウスなんて、あったけ?
学生時代の友だちが、唐人町の自宅から通学していた。何度か遊びに行ったことがある。RCサクセションが久保講堂でライブをやっていたころだ。『ラプソディ』というアルバムを大音量で聴いていたら、お姉さんが「もうちょっと音をしぼってね」とやさしく言いに来た。友だちのお父さんは漁師で、その時間は家で寝ていたのだ。
三十年以上も昔のことを思い出しながら会場を探す。アーケードのある商店街を何度か往復して、ようやく見つけた。英会話教室などが入っているビルの二階が、ちょっとしたライブや芝居などを打てる小ホールになっている。幾つかのバンドが出演し、セッティングのあいだに客も出たり入ったりしている。こういうアバウトさっていいな。
ぼくも途中でお茶を飲みに出た。それにしてもこの商店街、なかなかのものだ。いまはショッピングセンターなどに押されて、地元の商店街は壊滅的な打撃を受けているところが多い。多くの店がシャッターを下していて、歩いていると悲しい気分になってくる。だが、しかし、ここ唐人町商店街は異様に元気だ! 肉屋、八百屋、魚屋、雑貨屋、衣料品店、電気店、文房具店、喫茶店、レストラン、ベーカリーなどが、正しい庶民の商店街を形成している。そして嬉ことに、どの店も活気に溢れている。
壁に写真入のプレートが掲げてあるのを見つけた。それによると、この商店街はかつて唐津街道と呼ばれており、明治時代にすぐ横を走る明治通りができるまでは、ここがメインルートだったのだ。なるほど。近くには「草香江」や「荒戸」といった地名も残る。きっと昔は、このあたりまで海が入り込んでいたのだろう。そして街道は海沿いに走って唐津まで延びていた。その街道は、いまも元気な商店街として現役をつづけている。
めったに来る機会のない街だけれど、ひそかに応援したい気分でライブ会場をあとにした。