今月の街①……祇園町 / 福岡ウォーカー寄稿 あの日、あの街で
歳のせいか、街中に神社や寺を見つけると、ふと足を踏み入れたくなる。
ほとんど境界などないに等しい、人々の暮らしと地続きの空間なのに、不思議と都会の喧騒が遠ざかり、人心地ついた気がする。
福岡も、そんな神社や寺の多い街だ。
オフィスビルやマンションに囲まれた一角に、由緒のありそうな古刹がひっそりと佇んでいたりする。
なかに入ると、寺の建物の裏手が、意外に広い墓地になっていて驚かされる。樹齢を重ねた立派な銀杏などが、墓を守るように生えているのを目にすると、よくぞ残っていてくれましたと、思わず手を合わせたい気持ちになる。
入梅が近い日の午後、博多祇園山笠で有名な櫛田神社をふらりと訪れた。
改築なったばかりの社殿の横に、「力石」なるものを見つけた。
相撲取りが力自慢に持ち上げた石を奉納したものらしく、双葉山、大鵬、千代の富士といった、近年の有名力士たちの持ち上げた石が並んでいる。
いずれも普通の大人では、抱え上げるのにも難儀するような重さだ。
裏門を出た横に、ちょっと面白い通りを見つけた。五十メートルほどの狭い路地に、ラーメン屋、居酒屋、焼肉屋、お好み焼き屋、軽食喫茶、電器屋、洋裁店などが並んで、あたかも門前横丁といった趣である。
怪しげな出入口から人が現れた。なんだか阿片窟みたいだ。
ドキドキしながら入ってみると、迷路のような穴倉が奥の方までつづいている。
そこで何軒かの八百屋や魚屋がひっとりと店を開いていた。
店の人に話を聞くと、かつては魚屋だけで五軒、他に天ぷら屋や果物屋なども店を出し、ずいぶん賑わっていたらしい。
キツネにつままれたような気分で外に出ると、すでに居酒屋の赤提灯には灯が入っている。
ビジネス街にも近いから、きっと仕事帰りの人などが気軽に立ち寄っていくのだろう。店の前にはテーブルと椅子も並び、屋台の気分も味わえそうだ。
軽くビールでも飲んで帰ることにするか。
注文を告げ、ついでに通りの名前をたずねると、名前はない、という答えが返ってきた。