> 2011年11月の特集

文豪ゆかりの地 / 愛媛新聞PR誌「アクリート」寄稿 とりとめなく、えひめ

いろんな人が出席しやすいということで、最近は、高校までの同窓会が松山で催されることも多い。
たいてい道後あたりのホテルに部屋をとり、温泉にゆっくり入り、夜は遅くまで酒を飲んで騒ぐことになる。
時間があれば、土産物屋が並ぶ街をちょっと歩いてみる。
すると、あるわあるわ、漱石ならびに坊ちゃん関連グッズ。タオルからキーホルダーから耳掻きから、およそ思いつくかぎりのものが、文豪がらみで商品化されている。坊ちゃん団子があるくらいだから、赤シャツせんべいやマドンナ最中もあるに違いないと、見たわけではないけれど、強く確信している。
ご存知のように、小説のなかで松山は、土地も人も、主人公の口を借りて罵倒のかぎりを尽くされている。「野蛮な所だ。」「気の利かぬ田舎ものだ。」と、到着早々こんな感じである。あとは推して知るべし。
ところが、この不届きな作品をどう受け取ったものか、当地の人たちは立腹するでもなく、また漱石作品にたいして排斥運動を起こすこともなく、寛容な笑みを絶やさずに、「なもしなもし」などと言いながら、作品が発表されてから百年間、この一作で延々と商売しつづけているのである。偉い!
お土産だけではない。
電車に球場に文学賞に……こんな事態を文豪は予想しただろうか。するわけない。でも同情はしない。身から出た錆である。松山人の悪口を書いたのが運の尽きなのだ。
小説家だの文豪だのといっても、所詮、商人ならびに行政の敵ではない、ということを、いま一度、しっかり肝に銘じておきたいと思う。
ここで自分の体験を引き合いに出すのはおこがましいけれど、数年前、香川県のある町に立ち寄る機会があった。そこも、かなり大変なことになっていた。
うれしくもあり、気恥ずかしくもあり。さぬきうどんを一杯だけ食べて、早々に退散することにした。