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アビー・ロード / 福岡ウォーカー寄稿 レコードのある風景

現在、ビートルズのCDは、イギリス盤が世界共通のフォーマットになっている。すなわち一二枚のオリジナル・アルバムにアメリカ編集の『マジカル・ミステリー・ツアー』、シングルをまとめた『パスト・マスターズ』が二枚。全一五枚で、ビートルズの公式曲二一三曲を、すべて聴くことができる。なんて効率的、なんて簡単。
ぼくがロックを聴きはじめたのは中学二年生のとき、一九七二年ごろのことである。あのころレコード屋さんのビートルズ・コーナーは、一種のカオスだった。まずイギリスのオリジナル盤、これはいまも昔も由緒正しいビートルズである。問題はアメリカのキャピタル盤で、こいつが曲者だった。『ビートルズ・セカンド・アルバム』のように、タイトルもジャケットも違うものはまだわかりやすい。しかし『ミート・ザ・ビートルズ』は、イギリス盤の『ウィズ・ザ・ビートルズ』と同じジャケットを使いながら、中身がまったく違う。『ヘルプ』は同じタイトルなのに、ジャケットは微妙に違い、全十三曲中、ビートルズの演奏は七曲しか入っていないという、ほとんど詐欺まがいの代物。さらに『ステレオ!これがビートルズ』という日本編集盤や、『ビートルズ物語』という二枚組のドキュメンタリー・レコード(誰が買うんだ!)まで紛れ込んでいて、いたいけな中学生を混乱させるのだった。
イギリスと同じオリジナル仕様のアルバムがアメリカでも出るようになったのは、一九六七年の『サージェント・ペパーズ』から。以後、安心して彼らのレコードが買えるようになった。でも、なんだろう。あのころは鬱陶しかったアメリカ盤だが、いまになってみると妙に愛しいのだ。できれば、すべてのキャピタル盤を紙ジャケットで復刻してもらいたいと思う。勝手なものである。
『アビー・ロード』は彼らの最後のアルバムである。図柄はアビー・ロード・スタジオ前の横断歩道を渡る四人の写真。バンド名もアルバム・タイトルもない。撮影は一九六九年八月八日。午前十一時三十五分から十分くらいで終わったらしい。四人が三往復した六カットを、イアン・マクミランがフィルムにおさめる。アウト・テイクもすべて公開されているが、はっきり言って残りの五枚は悲しい。四人の足取りは揃わず、やる気のなさがにじみ出ている。この絶妙なショットが生まれたのは、ビートルズというバンドが最後に起こした奇蹟だったのかもしれない。