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海からの風景 / 愛媛新聞PR誌「アクリート」寄稿 とりとめなく、えひめ

去年の夏、雑誌の取材で瀬戸内の島々を旅してまわる機会があった。広島駅で東京からやって来る編集者やカメラマンと待ち合わせ、フェリーで松山へ。のんびりした船旅なので、デッキで潮風にあたりながら、ぼんやり海を眺めていた。

重なり合うようにして浮かぶ島々。どの島にも人の気配がある。大きな島には立派な橋が架かり、車や人の出入りも多そうだ。中くらいの島には港がある。狭い土地に肩を寄せ合うようにして建つ家々、畑は山の頂まで築かれている。無人と思われる島にも、かならず人の手が入っている。岸壁を石垣で補強してあったり、浜に鳥居や祠が勧進されていたり。海面からかろうじて顔を出している岩礁の上にも、小さな塔などが建っている。まるで箱庭のように、古来人々は、ここら一帯の海域に手を加えつづけてきたものらしい。

自分にとって故郷を象徴する風景とは、こうした海から眺めた島々、人の暮らしと親密な、穏やかでやさしい島々のたたずまいではないかと思った。それは幼いころ親しんだ風景であり、これから歳をとり、自分の死を意識するようになるにつれて、帰っていきたくなる風景かもしれない。

約三時間の船旅ののち、フェリーは高浜に入港。伊予鉄で三津の渡しへ。こういう運河、ぼくが生まれた宇和島にも昔ありました。時間が止まったような街に、積極的、建設的なものはあまりない。そのかわり人々のこまやかな愛着が、街の表情をかたちづくっている。個人商店の並ぶ慎ましやかな通りが、ひたすら懐かしい。暑いので、大衆食堂風の店でカキ氷を食べていくことにした。

「お客さんら、どちらからお見えです?」
「彼らは東京、ぼくは福岡です」
「そらまあ、遠いとこからようこそ」

伊予弁。くう~、たまらん。
これが私の故里だ
さやかに風も吹いている