あの本、この本①
許光俊さんが光文社のPR誌『本が好き!』に「世界最高のピアニスト」を連載されていたころ、ぼくも同じ雑誌に連載をさせてもらっていた。そんなご縁で許光俊さん(「許さん」と書きたいところだけれど、「ゆるさん」となるのでフルネームでいきます)の連載も、毎号楽しみに読んでいた。
一回目がアファナシエフで、以下、ポゴレリチ、ヴィルヘルム・ケンプとつづく。むむむ……ちょっと異常なラインナップ。つぎは誰だろう? 先がまったく読めない。毎回、そんな楽しみがあった。ところが連載の途中で雑誌が休刊となり、ピアニストのリストも途絶えてしまう。このたび、ようやく単行本として刊行されたことを慶びたいと思う。
とにかく、取り上げられているピアニストのラインナップが面白い。ポリーニ、アルゲリッチ、グルダ、グールドといった人気者のなかに、ファジル・サイのような曲者が紛れ込んでいる。ホロヴィッツの多面的な魅力に触れる一方で、ルービンシュタインについては素っ気ないくらいのコメント。また、バレンボイムは「その安っぽい音楽や姿には嫌悪感しか覚えない」と切り捨て、ブレンデルに至っては「ダサいリズム、スムーズでない抑揚、汚い響き、とにかく悲しくなるほど感覚的に恵まれていない人」と、辛口というよりは、ほとんどショッキングなまでの酷評がつづく。「なにもそこまで……」とバレンボイムやブレンデルが気の毒になる一方で、「うん、そうそう」と頷いている自分がいる。
許光俊さんが賞賛しているピアニスト、残念ながら、ぼくは一人もナマで聴いたことがない。「聴くなら今しかない」と言われるのはもっともなんだけど、なかなか福岡までは来てくれないんだよな。これからもCDで楽しむことになりそうだけれど、いろいろと新しい聴き方を触発され、もう一度ちゃんと聴いてみようという気にさせられる。【許光俊『世界最高のピアニスト』(光文社新書)】